母子

数日間続いた秋晴れが今日は雨に変わった。しとしと降って、残っていた夏を少しずつ、完全に秋の空気にした。蝉に変わってヒグラシが鳴き、家の中にまで金木犀の匂いがするようになった。

一昨年まで秋はあんまり好きじゃなかった。寂しくて、寒くなる一方やし、一日がだんだん短くなってくる。だけどここ数年、秋が好きみたい。たいした理由は思い浮かばんけど、騒々しい夏よりも落ち着いた秋の方がしっくりくる様になったからかな。要するに年をとったんやな。

今日、母君の日本舞踊発表会があった。家族全員で呼ばれ観に行った。始めて観に行ったのでどんなもんかと思っていたけど、ビックリした。何って、彼女の度胸が。まだ始めて2年なのにこの大舞台。60近いのに待ち娘かなんかの役で、長唄に合わせてチントンシャンとステップを踏んでいた。ものすごい派手な衣装で。彼女の演目が終わって我々はお弁当をもらいにロビーへ。そこへ母君登場。一瞬誰か分からんかったけど、声で分かった。近くで観るとものすごい化粧。白粉を塗りたくっているから、歯が黄色く見えて怖い。衣装も赤やら金やらド派手。ハイになっているらしく、私たちを見つけるとすぐ、「イヤ〜、一番いいところで間違えたんよ〜。もう、分かったやろ〜クヤしぃ」と、言わんければ誰にも分からんことを言い、でも本当は彼女にとってそんな事どうでも良く、しなを作ってみんなにご挨拶したり写真を撮ったりしていた。ロビーは完全に彼女が占領していた。
私たちはお弁当をもらうと、家路を急いだ。お昼を少し回っただけやったけどなんだかどっと疲れが出て、アルマと一緒にお昼寝した。

起きたら3時間くらい経っていた。夜は父と近所の焼鳥屋へ行った。母のバイタリティーについて私たちは色々と話した。焼き物をやって、茶道を習って、日本舞踊。野菜と花を育て、勢いでお風呂を豪華に変えてしまう母。庭の手入れが好きでしょっちゅう草取りやら、自分で木の枝きったり植木屋さん呼んで植え替えてみたり。。。友達と温泉に出かけ、京都に旅行。。。周りを巻き込んで自分のやりたい事を謳歌する母。そもそも父と結婚したのだって、ここやったら自分がやりたかった焼き物ができると分かったからやし。それまで焼き物なんてやった事無い幼稚園の先生やったのにね。
父にお前はお母さんのDNAを受け継いどると言われて、まさかと思った。まさかとは思ったけど、もしそうやとしたら自分の今後が怖くもあり、楽しみでもあるなと思った。